ハインリッヒの法則をご存知でしょうか?
お笑いコンビ爆笑問題のネタにも有りました。
例えば、人混みの多いところと言えば? と聞いたところ、330人中、300人は満員電車と答え、29人はディズニーランドと答えました。そして1人はウォーリーのまわり…という所で笑い。大喜利みたいな感じです。
実際はちょっと違います。アメリカの損害保険会社の技師であったハインリッヒさんが1929年に提唱した労働災害の法則です。1つの重大事故の背景には29件の軽微な事故が存在し、さらにその背景には300件のヒヤリ・ハットが隠されていることを統計的に分析したものです。
“ヒヤリ・ハット”とは、大きな事故になりかねないミスに“ヒヤリ”としたり、“ハッ”とした体験をさす言葉であり、インシデントとも言います。
比率の数字は状況や考え方で異なると思いますが、災害と軽微な事故とヒヤリ・ハットの関係は現在でも通用し、彼は“災害防止の祖父”と言われております。
この“ヒヤリ・ハット”は、単に“注意が足りない”と注意喚起のみで見過ごされがちです。
しかし、重大事故を減らすには、このヒヤリ・ハットの情報を把握し、フィードバックし、環境づくりやシステム改善などその対応策を講ずることこそ重要だということです。
ヒヤリ・ハットの種は薬の名前にも潜んでいます。
初めと終わりの文字が同じなど、読み間違いが起きやすい名称。
韻、語感、語呂、母音が似て、聞き間違いが起きやすい名称。
書き間違い、入力間違いを起こしやすい名称。
2種類以上の薬が配合されているなどの理由で非常に長い名称などなどトラップは色々あるのです。
そのようなヒヤリ・ハットの事例は 公益財団法人 日本医療機能評価機構 (JQ)に集められ対策が講じられます。
予めわかる場合は、例えば
ロサルタンカリウム・ヒドロクロロチアジド錠 → ロサルヒド配合錠
のように短くすることもあります。
ミスを防ぐという意味では、もう少し積極的な取り組みも行っています。
薬剤師が薬に関わる問題点に気づき、何とかして健康被害を防ぐというものです。
薬局に処方せんを出した時に、何らかのミスや健康被害の可能性に薬剤師が気づき、処方変更などで解決する場合です。このことはプレアボイドと呼ばれています。
プレアボイドとは、Be PREpared to AVOID the adverse drug reactions(薬による有害事象を防止・回避する)という言葉を基にした造語ですが、プレアボイドこそ薬剤師の仕事の中心といっても過言ではないでしょう。今日の薬剤師はしつこく質問してくるなぁと感じた時は何かに気づいたからかもしれません。なので“かかりつけ薬剤師”や“お薬手帳”をもつことで、より円滑になります。
ちなみにアナログのお薬手帳は災害時に非常に役立ちます。電気が無くても服用薬の種類や疾病が把握できるため、スムーズに医療を受けることができるのです。是非、防災セットに加えてあげてください。
さて、これらが完璧であり、臨床試験*を何度も重ねて世に出た医薬品であっても、特性上、思わぬ副作用が発見されることもあります。そこで副作用かどうかわからなくても、患者さんの体調変化などを薬剤師の視点で把握し、収集・解析していく薬剤イベントモニタリング(DEM)事業というものがあります。大量のデータを集めた中から新たな副作用や不適切な使用があぶり出されるのです。
*:医薬品を開発する際、本当に優れた効果が得られるのか、服用したことによって人体に影響はないのか、重大な副作用はみられないかなどを調べる試験のこと。
さらに、副作用が疑われる場合、厚生労働省所管の医薬品医療機器総合機構(PMDA)に報告します。そこに集められたデータからも新たな副作用が発見されたりします。
万が一副作用により健康被害が生じた場合には、医薬品副作用被害救済制度があります。
医薬品はいくら正しく使っていても、副作用を防げないことがあり、程度にもよりますが、受けた健康被害に対して、医療費や年金などの給付を受けられます。しかし、個人輸入された医薬品による健康被害については対象とならないのでご注意ください。
薬剤師は災害時も活躍しています。能登半島地震の被災地には北海道からも交代で派遣されています。
総じて、薬剤師の安全管理は目立たないながらも様々な段階で行われています。