雄大な自然景観に恵まれた道内には、温泉地が230か所あり全国第1 位で、日本の全温泉地の約8%を占めます。
道内には、利用されている源泉と現在利用されていない未利用源泉を合わせると、2229か所の源泉があり、全国で第4位となっています。
温泉の歴史
道内の温泉で最も古い記録が残っているのは、道南の「知内温泉」で13 世紀初めに発見されたと伝えられています。1653年には松前藩士が「湯の川温泉」で湯治したとか、箱館戦争では榎本武揚がここを療養所にあてたという記録も残されています。また、1858年には“北海道”の名付け親、松浦武四郎が「登別温泉」を訪れています。しかし記録にはないものの、はるか前からアイヌの人たちが温泉に親しんでいたと考えられています。
温泉の条件
地中より湧出する温水、鉱水及び水蒸気その他のガス(天然ガスを除く)で、温泉源から採取されるときの泉温が25℃以上あり、下表の物質が1 種類以上含まれるものが“温泉”と定義されています。また25℃未満のものは冷鉱泉と分類されています。
道内の温泉の泉質と効能
二酸化炭素泉(炭酸泉)
炭酸ガスが溶け込んだ無数の泡が肌にまとわりつくところから別名「泡の湯」と呼ばれている。泉温は低く、色は無色か白濁。炭酸ガスが皮膚や肺から吸収されると、皮膚や粘膜の毛細血管を刺激して血管を拡張させるため血流がよくなり、血圧が下がる。その結果、心臓に負担がかからず心臓病に効果的といわれている。また、温度が低くても湯から上がった後に体がポカポカしてくるので、低温でも保温効果がある。
効能 : 心臓病、高血圧ほか
下痢の時は飲用不可
塩化物泉(食塩泉)
塩化物泉は日本で最も多い温泉で、お湯をなめると塩辛い味がする。別名「熱の湯」と呼ばれ、保温効果が高い。また、消化機能を促進するための「胃腸の湯」といわれる。
入浴後、皮膚表面のタンパクや脂肪と塩分が反応して皮膚を皮膜状に覆うため発汗を防ぎ、保温効果が強まる。これによって末梢の血流が改善し、炎症によって生じた物質の排出が促進される。
効能 : 筋肉痛、神経痛、リウマチほか
腎臓病、高血圧症の方は飲用不可
炭酸水素塩泉
① 重曹泉(炭酸ナトリウム泉、または重炭酸ナトリウム泉)
石鹸が良く溶けるアルカリ性温泉。肌が滑らかになるので「美人の湯」と呼ばれている。アルカリ性で皮膚の角質層を軟化させ、さらに皮脂を乳化させるため油にしみ込んだ汚れが取れ、肌がツルツルとなる。
効能 : 美肌作用、皮膚作用、火傷ほか
腎臓病、高血圧症の方は飲用不可
② 重炭酸土類泉
陽イオンのカルシウム、マグネシウムにより鎮静効果がある。けいれんを抑えたり、炎症も和らげる。
効能 : 慢性皮膚病、アレルギー疾患、じんましん ほか
腎臓病、高血圧症の方は飲用不可
含鉄泉
鉄分を含むが無色透明。しかし、空気に触れると酸化して褐色になり効果が低下する。鉄は血液の中で、赤血球のヘモグロビン成分になり酸素を運搬する。鉄が欠乏すると赤血球が減少し、貧血になる。貧血には飲用も効果的。
効能 : 貧血、慢性関節リウマチほか
硫黄泉
お湯は白く濁り、卵の腐敗臭に似た硫化水素特有の臭いがある。硫黄泉の主成分である硫黄(硫化水素)が皮膚や肺から吸収されると、皮膚や粘膜の毛細血管を刺激して血管を拡張させるため、血行がよくなり、血圧を下げる働きをする。その結果、心臓に負担がかからず心臓病に効果的といわれる。「心臓の湯」。
効能 : 心臓病、皮膚病ほか
皮膚、粘膜の過敏な人、光線過敏症の人の浴用不可、下痢の時は飲用不可
酸性泉
硫化水素、明ばん、緑ばん(硫化鉄)を含む。無色透明から微黄色が特徴で、泉温が高く、飲むと酸っぱく、においが強い。入浴すると肌に刺激がある。酸性泉の皮膚への刺激で一時的に炎症を悪化させる。やがて症状は治まり皮膚表面の角質層が剥がれ落ちるが、その下で皮膚の修復が行われる。これは皮膚本来が持っている自然治癒力の効果といわれる。
効能 : 水虫、慢性の皮膚病ほか
皮膚、粘膜の過敏な人、光線過敏症な人の浴用不可
単純温泉
さまざまな成分を含むが、いずれも規定量に満たない温泉を総称して単純温泉と呼ぶ。ただ、泉温が25℃以上ある。体の刺激も少なく、作用は穏やかで万人向き。
一般的に手術後の療養や病後の回復に効果的といわれる。
効能 神経痛 ほか
放射能泉
俗にラジウム温泉、ラドン温泉と呼ばれる。放射能といってもごく微量のため人体への影響はない。ラドンは、無色無臭の不活性な気体であり、免疫機能向上、鎮痛作用、利尿作用などの効果が期待できる。このことは、多量では有害作用を持つが、少量では逆に有益な効果になるという「放射線ホルミシス効果」が要因といわれる。
効能 通風、慢性の尿路疾患、動脈硬化、高血圧症ほか
硫酸塩泉
①石膏泉 ②芒硝泉 ③正苦味泉 ④明ばん泉
「硫酸イオン」は、硫酸塩泉に含まれる成分で、皮膚や粘膜から入ると、血管を拡げ、血液の流れを良くする。硫酸塩泉に入った後は、血行がかなりよくなり、体温のぬくもりが持続する。またそれぞれの成分イオンによって効能に固有の特徴が生じる。
① カルシウム硫酸塩泉(石膏泉)
効能 : 高血圧症、動脈硬化、脳卒中、慢性関節リウマチ
下痢の時は飲用不可
② ナトリウム硫酸塩泉(芒硝泉)
効能 : 高血圧症、動脈硬化、外傷ほか
下痢の時、腎臓病、高血圧症の方は飲用不可
③ マグネシウム硫酸塩泉(正苦味泉)
効能 : 脳卒中後の麻痺の改善、動脈硬化、切り傷ほか
下痢の時は飲用不可
④ アルミニウム硫酸塩泉(明ばん泉)
効能 : 水虫、皮膚病ほか
下痢の時は飲用不可
道内には千島火山帯と那須火山帯が縦横に走り、有珠山や十勝岳、駒ヶ岳、樽前山、雌阿寒岳など活火山がたくさんあります。多くの温泉はそれら火山帯の上にあり、地下深くで温められた地下水が湧き出る「非火山性温泉」も含めて、豊かな温泉資源は大地からの“大切な贈り物”なのです。
我が国でも有数の温泉王国、北海道には16 もの温泉郷があります。大半は食塩泉ですが、この他にも単純温泉・重曹泉・硫黄泉・石膏泉・酸性泉・鉄泉などがあり、とてもバラエティに富んでいます。中には全国的にも珍しい「十勝川温泉」に代表されるモール温泉(泥炭を通して湧出する温泉)もあり、北海道遺産にも選定されています。また、北海道には美しい自然に包まれた秘湯も数多くあります。
いずれの温泉も北海道ならではの四季と大自然の環境が相乗効果を生み、訪れる多くの人を魅了し心の癒しと健康増進に役立っています。
参考資料
*1 温泉の保護と利用 令和4 年度温泉利用状況 環境省
https://www.env.go.jp/nature/onsen/pdf/4 5_p_1.pdf
*2 温泉の定義 環境省
https://www.env.go.jp/nature/onsen/point/index.html
*3 北海道薬剤師会公衆衛生検査センター発行 啓発用冊子
「北海道の温泉をたのしもう」